遺伝子進化の歴史では想定外の100才越え
先日、私の友人がある再生医療の学会に参加してきました(医師ではなくビジネスマンです)。
彼曰く、
「夢も希望もないですが、再生医療学会とか、今日の学会とか参加しても、退化したものを復活させるのはなかなか難しいようですね。ちょっと悪くなったというものには、よく効きますが。なので、キープヤング的なのがいまのアメリカを含めた世界の老化学のトレンドのようです。」
とのことでした。
そもそも生物は、遺伝子を残すために子供を産んで、ある程度育てて大丈夫となったら死ぬ前提できているそうです。
孫が生まれ、その後お祖父さんとして生きている…というのは想定されてないそうです。
遺伝子の進化の歴史では、この100年は想定外の事態なのです。
昔は癌で亡くなる人はほとんどなかったという話です。
これは癌を見つけられなかったということもあるかもしれませんが、発症しやすくなる年齢になる前に亡くなっていたからでしょう。
一度減少した「老衰」が再び増加
人間を構成するいろいろな細胞が退化して老化が進んで行き、やがて亡くなると老衰死となります。
令和4年の日本での死亡統計をみると、悪性疾患(癌)、心疾患に次いで「老衰」は3位です。
死因として、昭和初期には多かった「老衰」は減少してきたのですが、ここのところ急激に増加し脳血管疾患(脳出血や脳梗塞)を抜いて第3位となっています(表)。
厚労省の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」では「老衰」について、「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる」と記載されています。
昭和も進むにつれ、老衰という死亡診断名が減ってきたのは、医療の進歩で診断がきちんとされるようになったこと、医師が老衰という診断はなるべく避けてきたこと、などが理由と思われます。
ですが、なぜ平成17年頃を境目に、老衰という死因が増加してきているのでしょう。
いろいろな理由が考えられています。
ひとつには、食事ができなくなった人への点滴、胃瘻からの経腸栄養などによる延命治療が疑問視され、自然な形でお看取りをすることを是とする世の中の雰囲気の変化があると言われています。
訪問診療を主とする、当クリニックでの死亡診断書も確かに「老衰」という病名が多くなってきています。
在宅における診療では、施行できる検査も少なく、なかなか診断つかないことも多々あります。
たとえば高齢の患者さんの場合で、食欲不振があったとします。
昔ならすぐ精査をして、胃癌などの原因が見つかれば、治療に進むことが多くありました。
少しでも長く生きることを目指したい欲求が、医師側、患者さん側にもあってのことではないかと思います。
今でも基本的には同じだと思いますが、手術や抗がん剤は難しいだろうという状態であれば、あえて検査をせず、そのまま自然にみていくことになります。
その場合、はっきりした原因はなく、食事量が減ってお亡くなりになったのですから「老衰」という診断になります。
在宅医療の普及と社会的側面
このように、訪問診療において高齢者の死因は明確な傷病名をもって診断することが難しい場合も多いのです。
そしてこのような場合、多少死亡に関わる病気が他にあったとしても、老衰という死因は、何か大往生といった感じで、ご家族にとって受け入れやすい病名でもあり、また死因として記載もしやすいという側面があるのだと思います。
ですので、死因は本来、あくまでも医学的に決定するべきなのでしょうが、ある程度社会的な側面も反映しています。
新型コロナ感染症の流行も少なからず影響があるようです。
今後、高齢化社会が進み、在宅でみていく患者さんが増加すれば、益々「老衰」による死亡は増えてくることが予想されますし、またそれも自然なことでしょう。
癌や動脈硬化などが原因の脳血管障害や心臓病も、老化によるものと考えることができます。
老化を防ぐことはできませんが、少しでも遅らせて、健康寿命を延ばすことが重要ですね。