院長の仕事のうち、とても重いウェイトを占める医師確保事業。
院長に限らず、部長職など役職に就いている医師にとっては、最優先事項であるのではないでしょうか?そこで、ここではどのような戦略で医師を獲得すべきかについて、わたしの院長経験も踏まえて述べてみたいと思います。
求める医師像は明確に
まず病院ごと、あるいは所属する診療科目ごとに求める医師像をしっかり定めることが必要だと思います。
「医師であれば誰でも良い」という心持ちで求人を出しても、医師の応募そのものがほとんど見込めないばかりか、良質の医師の採用に結びつきません。
医師はいい意味でプライドの塊ですので、求人を見て「自分が必要とされている」と感じてもらえるように、まずは病院の求める医師像を定める必要があります。
参考までに、庄内余目病院で求めていた医師像を挙げてみます。
1.自分の専門領域およびその周辺領域を一人でもきちんと診断、治療ができ、さらに向上心がある。
2.研修医やコメディカル等に対して教育熱心である。
挙げてみると当たり前でもあり、医師としての理想像を描いたような項目でもあります。
ただ、重要なのはこうした「求める医師像」を考え、定めたら、たとえば「週に最低6日間働ける医師」とか、「年収を給与表通りで了承した医師」であるといった、現実的には大事な事柄は考え過ぎないことです。
これらの項目を求人に明示している病院はさすがにないとは思いますが、採用担当者や院長の心の中には、こうした現実的な事情を潜在的に意識してしまう方も刷り込まれていることは多いのではないでしょうか?
医師の心に響く医療機関になる
求人を打ち出す際、医師が不足している診療科を機械的に列挙して諸条件をつらねていくという方法もあるかもしれませんが、そうした病院側の要望はいったん脇に置いて、わたしは最初に挙げた二2項目だけを意識するようにしています。
その上で一度立ち止まって、自分たちが求めている医師に魅力的に思ってもらえるように、病院のあり方を設定し、実現していくのです。
医師確保を通常の商取引に例えると、転職を希望している医師が「顧客」であり、病院が「商品」であると言えます。
病院の理念やそれに沿う行動がしっかりしていなければ、いくら求人を出しても「顧客」である医師の心には響きません。
庄内余目病院には理念と基本方針がありましたが、その中のいくつかの項目には商品としての病院を形づくる項目があります。
たとえば「次代の医療を担う医師、看護師、コメディカル等の有能な人材育成を目指します」といった項目はまさに求める医師像の2番目に呼応しています。
また、わたしは庄内余目病院の院長として、「理念」のみならず、「診療上のコンセプト」というものを就任数年後に設定しました。
今回はその効用について解説します。
診療で大切にしてほしい2つのコンセプトとは
わたしが「診療上のコンセプト」として打ちだしたのは、以下の2つです。
(1)地域の熟年高齢者に、医療、福祉を包括的に提供する。
(2)専門店機能を備えたコンビニ的病院
(1)のコンセプトは、本書でも以前お示しした「専門領域およびその周辺領域を診療できる医師」という部分に呼応しています。
(2)は、気楽に受診できる病院としての位置づけを踏まえたものにしていますが、そればかりではなく、「いくつかの領域では専門的で高度な医療を提供していこう」という意志も示しています。
言い換えれば病院のブランド化を図るということで、いくつかの領域で山形県一、日本一を目指していこうということです。
前項で挙げた「創傷ケアセンター」などはまさに(2)のコンセプトに基づいて開設したものですが、まさに理念、コンセプトの勝利とも言えるような結果を導いています。
現在、わたしは群馬県在住ですが、庄内余目病院の創傷ケアセンターに移ってきた医師たちは関東地方と比較しても、とても質が高い。
優秀な医師をひきつける役割をこの創傷ケアセンターが担っていたのです。
病院の魅力をより効果的に伝えるために
もう一つ、医師確保戦略においてとても大事な「商品」があります。
それは院長や診療部長などの「人」です。応募してくる医師にとって、病院そのものとそこで働く同僚、(特に中小規模病院では)院長の影響は大きいと思われます。医師に魅力的に思ってもらえる病院の院長とはどんな存在であるべきか―わたし自身いつも自問自答しつづけてきました。
院長個人をブランディングする上では、「院長をどのように露出させていくか」も重要です。
わたし自身も自らの考えを社会に発信し、個人ブランドを確立することを目指していましたが、SNSの発達によって、この点は、とてもやりやすい状況になっていると感じました。
つまり、ホームページ、ブログ、Twitter、Facebookなどのインターネットを使った広報は必須で、これらと連動して、病院広報紙やマスコミ、さらには書籍の刊行などがとても大事だと思われます。
最後に、肝心の医師に対するマーケティングはどのように行えばよいのでしょうか?
わたしは、いわゆる医師転職の仲介業者の賢い利用が大事だと思っています。
現在、大学医局の人材保有力は確実に減少してきているので、大型病院以外での医局に頼った人事は、とても不安定になってしまいました。
ですから、このような業者を上手に利用することが必要ではないでしょうか。
庄内余目病院では、わたしが院長在職中に、毎年700万円ほど医師獲得のための経費を計上していましたが、そのうちの何割かは、仲介会社に支払う手数料となっていました。
「医師を採用するためには、どうしたらよいでしょうか。」への私的結論
理念に基づいて医師を獲得する上では、病院、院長のブランド化も必須です、仲介業者も上手に利用したいところです。