医師は裕福だと思っている方がいるかもしれません。
しかし少なくとも勤務医に関しては、その認識と全く異なった状態であるといえます。
たしかに収入は一般のサラリーマンより高額ですが、医師特有の出費、裕福だという誤解からくる出費、見栄からくる出費、そして結婚、子育て、人によっては離婚などからくる出費が重なって、自己破産に陥ってしまった医師も実際に存在します。
わたし自身も2度、貯金がほぼゼロになってしまって、電気代などの引落が無事できるかどうか真剣に検討したことがあるので、その経過を少しお話したいと思います。
医師が直面する一度目の危機
まず一度目の危機は米国留学から帰ってきて数か月後に起こりました。
直接の原因は留学による出費でした。
留学に行く前は先輩医師から「家族で行くと1年に2千万円は使うから、2年で4千万円は用意しておかなければならない」と言われていました。
でも正直そんなに掛かるとは思いませんでしたし、幸い休職の身分で行けたので、大学からの給料もあり、さらに2年目は留学先からも多少の収入を得ることができたので、何とかなるだろうと思っていました。
渡米後は、家具や生活用品をガレージセールなどで安く調達したり、20ドル以上のものがほしい時はいったん帰宅して買うかどうか、検討するようにしたりと質素な生活を送り、出費は抑えていたはずでした。
しかし実際は、留学前に500万円以上あった貯金も帰国時にはすっかり底をつき、口座からの引落を前に、妻と残高計算を毎日行いました。
いろいろ計算してみると、おおよそ、毎年1500万円ほど使った感じでした。
出費の要因として、留学先が物価の高いボストンだったこと、子どもが当時4人いて教育費が思いのほかかかったこと、そして、たまにはぜいたくをと思い、夏休みには皆で観光に行ったり、ボストン交響楽団のシーズンチケットを買ってコンサートを聴きに行ったりしていたことが響いたようです。
ですから、これから留学を考えている方は、予想以上の出費がありえるというつもりでお金の準備をしていく必要があります。
わたしの場合、貯金が少なかったのもよくなかったのですが、これは留学の5年ほど前に建売住宅を購入したこと、大学院時代は奨学金を借りて何とか生活していた
ことなどが大きな原因でした。
2度目の破産の危機
2度目の破産の危機は、大学生の子どもを抱えている時期に訪れました。
この時期に、子どもの教育や養育にかかる費用が極大化したのです。
わたしには5人の子どもがいて、現時点(2017年初頭)では4人が結婚、独立し、末っ子が大学3年生なので、まだ“極大化シーズン”がやっと終わるというところです。
毎年の収支を計算すると、いつも収支トントンです。
貯金が増えるはずがありません。
5人の子どもがいるという特殊事情のせいかもしれませんが、首都圏に下宿させて、私立大学に進学させると、1人年間300万円はかかります。
そして、わたしの場合は2人の大学生を抱えた時期が12年続いたので、これだけで7000万円ほどの出費です。
そこに、子どもの結婚、出産なども重なってきますので、よく破産せずに堪えているなあというのが実感です。
もしも子どものうちの誰かが、私立の医学部へ進学をしていたらと考えると、ぞくっとします。
ただ正直に申しあげると、この養育費だけで苦しいわけではありません。
住んでいる家の住宅ローン、単身赴任地で購入したマンションのローンなどがあり、それらが加わっているのでまさに破産の危機となっているのです。
長期的な収支シミュレーションを
ですから、お子さんが大学を卒業するときまでの金銭的なシミュレーションをしておくことが、とても大事だと思います。
最近では生命保険会社所属のファイナンシャルプランナーが、そのような予測をしてくれます。
ぜひ、活用されたらいいと思います。
わたしも、教授選が始まるときに、ある生命保険会社の方に予測してもらいました。
その時の結果は、もしわたしが教授になって、そのまま筑波大学にとどまるとしたら、定年までになんと2億円足りないという試算でした。
その時は教授選前でもあり、その結果を受け入れられませんでしたが、今振り返ってみると、まさにその通りだったなあと感じます。
教授選に敗れ、その後は民間病院の院長になったわけですが、それにより、何とか破産せずに済んだという感じです。
幸い、わたしには現時点で起こっていませんが、もしも離婚をした場合には、心理的にも経済的にも大変な負担でしょう。
また両親の病気、介護などでも大きな負担がのしかかる可能性があります。
当たり前ですが、「借金はするな。貯金をせよ」ということが最も大事であると実感している、今日この頃です。
「勤務医が経済的な側面で気を付けるべきことは何でしょうか?」への私的結論
勤務医はサラリーマンであることを自覚して、借金をせずに貯金をしていくという現実的な対応が大事。破産の危機は、海外留学直後と子どもの大学卒業時にやってくる可能性が大きい。